みなさんこんにちは。ガジェットバジェットの、なおです。
これまで当ブログやYouTubeチャンネルでは、数々のメカニカルキーボードを紹介し、キースイッチの交換やテープmod(改造)による打鍵感の追求など、いわゆる「キーボード沼」をそれなりに楽しんできました。しかし、心のどこかでずっと気になっていながら、なかなか足を踏み入れられずにいた未開拓の領域がありました。
それが、「分割キーボード」の世界です。
その名の通り、左右に真っ二つに分かれているキーボード。エルゴノミクス(人間工学)を突き詰めたその形状は、一般的なキーボードとは一線を画す異様なオーラを放っています。今回は、自作キーボード界隈では非常に有名な「Corne(コルネ)」の最新版、「Corne V4」を購入しましたので、その開封からビルド、そして実際の使い心地までをじっくりとレビューしていきたいと思います。
結論から言うと、このキーボードは「最強の入力環境」への入り口であると同時に、これまでのタイピング習慣を全て破壊される「試練の始まり」でもありました。
過去の記憶:アリス配列との出会い
私が「変則的な配列」に触れるのは、実はこれが初めてではありません。記憶を遡ること約20年。Windows XPが全盛だった頃、職場の先輩からあるキーボードを譲り受けました。
それはマイクロソフト社の「Natural Multimedia Keyboard」。
当時としては先進的なデザインで、キーボードの中央が盛り上がり、キー配列がハの字に湾曲しているものでした。今で言う「アリス配列」に近い形状です。上部にはメディアコントロール用のボタンが並び、パームレスト一体型の巨大な筐体は、デスクのスペースを大幅に占有していました。
当時は「アリス配列」なんて言葉も知らず、「なんか変な形だけど、手首が楽だな」くらいの感覚で使っていました。打鍵感はメンブレン特有のフニャッとしたものでしたが、長時間タイピングしても疲れにくいその設計には感心したものです。あれが私にとって、エルゴノミクスキーボードとの原体験だったのだと思います。
それから時は流れ、今の私はコンパクトで打鍵感の良いメカニカルキーボードを好んで使っています。しかし、長時間のデスクワークによる肩こりや首の痛みは現代人の職業病。そこで再び、「左右に手を広げてゆったり打てる」分割キーボードへの回帰を思い立ったわけです。
AliExpressで「Corne V4」を購入
今回購入先に選んだのは、ガジェット好きにはおなじみのAliExpress(アリエクスプレス)。「Corne V4」で検索すると、完成品からキットまで様々なバリエーションが出てきますが、私はビルドの手間を楽しみつつコストを抑えるため、3,801円(購入時価格)の半完成キットを購入しました。
衝撃のシンプル梱包
海を渡って届いた荷物は、箱ですらありませんでした。ビニール袋に包まれただけの、非常にラフな梱包。これぞアリエククオリティ、と妙に納得しつつ開封していきます。
包みを開けると、さらに包みが現れ、「Corne V4...」と書かれたラベルが見えます。中から出てきたのは、左右のキーボード基板(ケース付き)と、それらを繋ぐためのケーブル、そして滑り止めのゴム足のみ。
「えっ、これだけ?」
キースイッチもキーキャップも付属していないため、一見すると電子工作のパーツにしか見えません。キーボードとしての体を成していないその姿に、一瞬不安がよぎります。しかし、手に取ってみるとその薄さとコンパクトさには驚かされました。片手分のサイズは、最近の大型スマートフォンより一回り大きい程度。これならデスクの上に置いても圧迫感は皆無でしょう。
謎の3.5mmジャック
左右のユニットを接続するケーブルを見て、あることに気づきました。端子の形状が、昔ながらのイヤホンジャック(3.5mmプラグ)そのものなのです。
一般的に分割キーボードの左右通信にはTRRSケーブルという、4極のオーディオケーブルのようなものが使われることが多いのですが、実物をまじまじと見ると不思議な感覚です。「これでデータ通信するの?」と疑いたくなりますが、自作キーボードの世界では標準的な仕様の一つです。
また、PCとの接続用にはUSB Type-Cポートが搭載されています。ここは現代的な仕様で安心しました。
いざ、ビルド開始
マニュアル類は一切入っていませんでした。本当に基板とケースだけ。初心者がいきなりこれを渡されたら途方に暮れるかもしれませんが、幸い今回のモデルは「ホットスワップ」に対応しています。はんだ付けの必要がなく、スイッチを差し込むだけで完成するお手軽仕様です。
スイッチとキャップの移植
今回はコストダウンのため、以前レビューした「AURA F75」というキーボードからキースイッチとキーキャップを移植することにしました。
使用するスイッチは「LEOBOG Reaper Switch」。リニアタイプで滑らかな押し心地が特徴のスイッチです。これを一つひとつ、Corne V4のソケットに差し込んでいきます。
ちなみに、今回購入したCorne V4のスペックを簡単にまとめておきましょう。
キー数: 46キー(左右合計)
レイアウト: 40%サイズ分割式・カラムスタッガード配列
接続: USB Type-C
スイッチ: ホットスワップ対応
バックライト: RGB LED対応
チップ: RP2040搭載
ファームウェア: QMK Firmware / VIAL対応
特筆すべきは「46キー」という少なさです。一般的なフルキーボードが108キー前後、テンキーレスでも87キー前後あることを考えると、半分以下のキーしかありません。数字キーの行すらなく、ファンクションキーも矢印キーも見当たらない。この極限まで削ぎ落とされたキー数でどうやって入力するのか?それは後述する「レイヤー機能」が鍵を握ります。
プロファイルの相性問題が発生
さて、F75から取り外したキーキャップを装着してみたのですが、ここで問題が発生しました。
「なんか、打ちにくい…」
F75のキーキャップは「Cherryプロファイル」と呼ばれる、列ごとに高さや傾斜が異なる一般的な形状をしていました。通常のキーボード(ロウスタッガード配列)であれば指にフィットして打ちやすいのですが、Corne V4のような格子状に近い配列の場合、この傾斜が逆に違和感を生んでしまったのです。
指がキーの角に引っかかるような、妙な窮屈さを感じます。せっかくの流用計画でしたが、快適な打鍵のためには妥協できません。
救世主「JUSENDA Blue Cat」キーキャップ
そこで、手持ちの在庫から別のキーキャップを召喚しました。「JUSENDA」というブランドの「Blue Cat」キーキャップです。AliExpressで約1,600円で購入した激安PBTキーキャップですが、これには大きな特徴があります。
それは「MOAプロファイル」であること。
MOAプロファイルは、全てのキーの高さが均一で、表面が丸く窪んでいる形状をしています。XDAプロファイルなどに似ていますが、よりコロンとした可愛らしい見た目が特徴です。
これを装着してみると、驚くほどしっくりきました。高さが均一なので、指をどこに滑らせても引っかかりがありません。さらに、キースイッチがむき出しのフローティングデザインと相まって、見た目もポップで愛らしくなりました。青白い猫のイラストが描かれたキーキャップは、無骨な基板の雰囲気を一気に和らげてくれます。
ソフトウェア設定:VIALの威力
ハードウェアが完成したので、次はソフトウェアの設定です。マニュアルがないので手探りですが、商品ページの情報によれば「QMK/VIAL対応」とのこと。
通常、自作キーボードのキーマップ変更には「VIA」というソフトが使われますが、このボードは「VIAL(バイアル)」という、VIAの派生版かつ高機能版に対応しているようです。
VIALの公式サイトからアプリをダウンロードし、起動してキーボードを接続するだけ。面倒なjsonファイルの読み込みなども不要で、即座にキーボードが認識されました。これは非常に優秀です。
画面を見ると、46個のキーに対して自由に機能を割り当てられる画面が表示されます。ここで重要なのが「レイヤー」の概念です。
物理的なキーが少ない分、「特定のキーを押している間だけ、別のキー配列になる」というレイヤー機能を駆使します。例えば、
右レイヤーキーを押しながら「Q」を押すと「1」が入力される
左レイヤーキーを押しながら「H/J/K/L」を押すと「矢印キー」になる
といった具合です。この設定を自分好みにカスタマイズできるのが、自作キーボード最大の醍醐味と言えるでしょう。今回はとりあえずデフォルトの設定のまま、まずは慣れることから始めてみることにしました。
実践:カラムスタッガード配列の洗礼
準備は整いました。いざ、タイピングの時間です。
キーボードを肩幅くらいに広げ、胸を開いた状態で手を置きます。
「おお…! 楽だ!」
これが第一印象です。普通のキーボードだと、どうしても脇を締めて、両手を胸の前で窮屈に寄せる姿勢になります。それが猫背や巻き肩の原因になるのですが、分割キーボードなら自然と胸が開きます。呼吸も深くなるような、開放的な感覚。これは素晴らしい。
しかし、その感動はタイピングを始めた瞬間に絶望へと変わりました。
脳がバグる感覚
使用したサイトはおなじみの「E-Typing」。普段のキーボードであれば、そこそこのスコアを出せる自信があります。しかし、Corne V4で打ち始めた途端、指が止まりました。
「あれ? 『B』ってどっちの手だっけ?」
「『Y』は右手?左手?」
「『Z』を打とうとして『X』を押してしまう!」
原因は、このキーボードの配列「カラムスタッガード」にあります。
一般的なキーボードは「ロウスタッガード」と呼ばれ、横の行(Row)ごとに少しずつズレています。これはタイプライターの構造上の名残なのですが、私たちは長年の経験でこの「ズレ」に指が最適化されています。
対してカラムスタッガードは、縦の列(Column)が揃っており、指の長さに合わせてキー位置が上下に調整されています。理論上はこちらの方が指の動きに無理がないはずなのですが、長年染み付いた「斜めに指を動かす癖」が邪魔をするのです。
特に左手の小指周り(Z, X, C)のズレ方が顕著に違うため、いつもの感覚で指を伸ばすと、キーとキーの間に指が落ちたり、隣のキーを叩いてしまったりします。脳内にあるキーマップと、実際の物理配置が一致しない。まるで鏡を見ながら文字を書いているような、脳がバグる感覚に襲われました。
衝撃の結果:C-判定
必死に画面を見ながら、おぼつかない手つきでタイピングを終えました。
結果は…。
「C-」
目を疑いました。Cマイナスです。「びっくりするくらい打ててない」という表現がこれほど似合う結果もありません。
悔しいので、すぐに普段使っているロウスタッガードのキーボードに戻して再挑戦しました。
結果は「S」。
この落差。ハードウェアの問題ではありません。完全に私のスキル、いや、「慣れ」の問題です。私の指は、自分が思っていた以上に「タイプライターの亡霊」に囚われていたようです。
まとめ:分割キーボードは「アリ」か「ナシ」か
今回、初めて分割キーボード「Corne V4」を導入してみましたが、その評価は「未来への投資」という言葉に尽きます。
メリット
姿勢の改善: 肩が開くことによる快適さは、一度味わうと戻れない魅力があります。長時間の作業でも疲れにくくなるポテンシャルを強く感じました。
省スペース: デスクの中央が空くため、そこにタブレットを置いたり、資料を広げたりできます。
カスタマイズ性: VIALによるキーマップ変更は強力で、使い込めばホームポジションから手を動かさずに全ての操作が可能になります。
デメリット
学習コスト: これに尽きます。タッチタイピングができる人ほど、矯正には時間がかかるでしょう。数日から数週間、生産性が落ちることを覚悟しなければなりません。
結論
「楽をして入力したい」と思って買うと、最初は地獄を見ます。しかし、その「慣れの壁」を乗り越えた先には、肩こりからの解放と、自分だけの最強の入力環境が待っています。
もしあなたが、
デスクワークによる慢性的な肩こりに悩んでいる
普通のキーボードに飽きてしまい、新しい刺激が欲しい
自分好みに道具を育てていく過程を楽しめる
そんなタイプであれば、このCorne V4は最高の相棒になるはずです。何より、10,000円以下(スイッチ・キャップ含む)でこの体験ができるのは、自作キーボード入門として非常に優秀です。
私はこれからしばらく、このCマイナスの状態からリハビリを続けてみようと思います。いつかこのキーボードでS判定が出せるようになった時、また改めてその使い心地をレポートしたいと思います。
分割キーボード、みなさんはアリですか?ナシですか?
ぜひコメントで教えてください。
それでは、また次回のガジェットでお会いしましょう!